2-『甘い罠』

2009年09月26日
「甘い恋の5題」-2

『甘い罠』



   ギン × 一護 。


   お題配布サイト・「追憶の苑」様より、お借りしました。
   タイトルの順番を入れ替えて、使用させていただいてます。








銀色の月の下、長身痩躯な男が一人。


月光を集めて作ったかのような、冴え冴えとした容貌。
いつも浮かべている仮面のような微笑を外したその顔は、
その髪色とあいまって、どこまでも冷淡な印象を与える。
実際、彼の本質はそんなものかもしれないと、考えることもあるけれど。

それなのに。
そんな男が、一護の姿を認めた瞬間、優しげに微笑むのだ。
それは、常に浮かべる微笑とは、確かに質が違うように感じられて、
先日、唐突に聞かされた彼の言葉が、嫌でも一護の中で甦ってしまう。


   『黒崎君が好きや。』


彼との初めての遭遇はひどいものだった、と一護は思う。
何せ、尸魂界にとっての招かれざる客・旅禍として、出会ったのだ。

狩る者と狩られる者。

その中で、敵として一番最初に対峙した死神が、ギンだった。
全てが終わった後でさえ取り立てて接点もなく、彼の告白はとても信用できない。
・・・理性ではそう判断してるのに・・・。

感情が、揺さぶられる。

あれから、一護に対するギンの態度が目に見えて変わった。
一護が尸魂界へ行くと、どこからともなく現れて声をかけてくる。
変わらず愛を囁くこともあれば、ただ顔を見るだけで立ち去ることもある。
それでも、自分の霊圧を感じれば、どこからともなく現れるのだ。

それだけではなくて。
こうやって、死神代行の仕事をしている夜、人間界に現れることまであった。
護廷十三隊・隊長の一人である、ギンが、である。


銀色の月の下、ひっそりと佇むギン。

霊圧は完全に隠している。一護が気付かなければ、どうするつもりなのだろう。
黙って帰るのか。声をかけてくるのか。一護に気付かれる絶対の自信があるのか。
試してやろうかと思うときもあるが、こちらが気が付くのを待っていたかのように、
すぐさま柔らかい微笑を向けられるから、何も出来なくなってしまう。

「お疲れさん、黒崎君。」
「おう。アンタもな。って、どうせ仕事で来た訳じゃねーんだろ?」
「ん~?どうやろなぁ?」
「お前がいるんだったら、俺まで仕事に駆り出すな。」
「それはボクのせいちゃうよー。それに黒崎君なら簡単やったろ。」
「・・・なんで知ってる?」
「見とったからね。」
「・・・本当に何しに来たんだ、アンタは。」
「そやねー。黒崎君の顔を見に、ってとこやろか。」
「それじゃあ、もう用は済んだな。帰れ。」
「そないにつれないこと言われたら、淋しいやないの。黒崎君の家まで送ったるわ。」
「今のこの姿は誰にも見えねーんだ。わざわざ送ってもらわなくても結構だ。」
「せっかくのデートや。気にせんと一緒に帰ろ?」

いつもこうやって、気が付くとギンに押し切られているのだ。
取り立てて何を話すでもなく。隣を歩くだけの男。
一護は、その気配に、いつの間にか馴染んでいる事に気がついた。
邪魔じゃない。苦にならない。むしろ、ホッとするような・・・。
そこまで考えると、一護は慌てて思考を逸らした。

「どないしたん?」 ふいと視線を向けてくるギン。
「別に、なんでもねぇ。」 こういう所は苦手だと思う。
感情の奥を、見透かすかのような視線を感じるから。

「ふ~ん・・・。なぁ、手ぇ、繋いでもええ?」 唐突に申し出される、ギンの言葉。
「なっっ!!」 予期しない申し出に、咄嗟に言葉もなく固まってしまった。

「えーやないの、手ぇくらい。どうせ、誰にも見えへんで?」
にたり、といつもの裏を感じさせる笑顔を浮かべたギンは、
一護が言葉を失っているうちに、さっさとその手を取ってしまう。

「・・・放せよっ。」
咎めるよう視線に力を籠めたところで、ギンはどこ吹く風である。
いくら眉間に皺が刻まれていようとも、耳まで赤くしていれば威力はない。

「いややー。にしても、黒崎君、ちっこい手ぇしてはるなぁ。
あないに大きい斬魄刀振り回してるとは、思われへんよ。」
「別に俺の手が小せぇわけじゃねーだろ。アンタの手がデカ過ぎんだ。」

一護よりも白い、けれども大きい手。父親のものとは違い、繊細なつくりだ。
ギンの手だと思えば、もっとひんやりしていそうなのに、思いの外温かかった。
・・・その他人の体温が、嫌じゃない。

「ボクの手ぇかて、そない大きくないよ。身長分の違い、ってことやろか?」
「・・・言っとくけどな、身長だって俺が低い訳じゃねぇ!アンタがデカいんだからな!」
高校生男子としてはそれなりに身長がある方だと思っていた一護だけに、
背の話となると、思わずムキになってしまう。

「別に黒崎君が小さいとは思てへんよ?・・・ただ。
こういう事をするのにちょうどいい高さやな、と思うだけで・・・。」

言葉とともに、ギンの顔が降りてくる。


一瞬触れた、唇に残る温もり。
「・・・アンタ、今・・・。」 一護の声が微かに震えていた。

虚と対峙しても恐怖など感じないのに、今、訳の解らぬ慄きを感じる。
自分の中で、何かが変わってしまう予感。

「夢ん中でも逢えるおまじないや。おやすみ、黒崎君。」
言いたいことだけ言うと、さっくりとギンは姿を消していた。
前回と同じ・・・一護は再び、キツネに化かされた気分を味わう。

でも、あの時と違うのは、唇が熱いということ。
思わず、自分の口許を手で覆っていた。


初めて逢った時と何も変わっていないのかもしれない、一護はふと思う。

狩る者と狩られる者。

自分は、ギンの罠に嵌った『獲物』。
少しずつ距離を詰められ、気がついた時にはもう遅かった。

・・・一護の逃げ道は残されていない。

いつまでも残る、唇の熱が全てを明確にする。


すでに、心は、囚われていた。





     (  ’09.9.11 )





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