1-『逃げられるものなら逃げてごらん』

2009年09月26日
「甘い恋の5題 」-1

『逃げられるものなら逃げてご覧』



   ギン → 一護 。
   ギン、告白編。


   お題配布サイト・「追憶の苑」様よりお借りしました。
   タイトルの順番を入れ替えて、使用させていただいてます。







「ボク、黒崎君が好きや。」

突然、目の前に現れたキツネが、何の前置きもなく口にした。

「・・・は?」
「そやから、君の事が好きや、言うとる。」
「・・・え~っと・・・どういう意味?」
「好き、に他の意味なんかあるん?」

面白そうに、にたりと笑みを深くしてキツネは言う。
そんな顔をして、そんな言葉を聞かされても信憑性はない。
そもそも、『好き』と言ってもらえるほど、深い付き合いがある訳でもなかった。
一護は目の前の男をしげしげと眺めながら、再度、問う。

「・・・なんで、俺?」

キツネの笑みが深くなる。

「そういう所。」
「解んねーんだけど?」
「ボクを怖がらん。真っ直ぐ目ぇ見ながら答えてくれはるし。」

キツネはどこまでも楽しそう。
からかわれているのだろうか。
自分でも、眉間の皺が深くなるのが解る。
思わず、視線がきつくなってしまう。

「その胡散臭い笑い顔が、信じられねぇ。」
「そんなこと、面と向かって言われたんも初めてや。」
「あーそーかよ。」
「やっぱり、好きやなぁ。なぁ、ボクと付きおうて?」
「嫌だ。」
「何でなん?」
「・・・って、アンタも俺も男だぞ。」
「そないなこと、気にせんとき?」
「いや、気になるだろ、普通!ってか、そもそも、俺、アンタの事知らないから。」
「護廷三番隊隊長やってる、市丸ギンや。」
「・・・や、それくらいは知ってるし。」

キツネ、もとい市丸ギンは、相変わらずの薄笑いを浮かべた顔で、のらくら答えてくる。
この男の本意がどこにあるかなんて、一護に解るはずもない。

「・・・なぁ。本当に何がしたいんだよ?」
「せやから、キミをボクのモンにしたいんよ。」
「・・・・・・。」
「信じられへん?」
「当たり前だろーが。」

一護にしてみれば、やはりギンがからかっているとしか思えない。
真面目に信じたとたん、嘘~、と笑い出しそうだ。

他人から聞いたイメージでは、ギンの印象はそんなものだった。
そして、一護も、それを否定するだけの情報をまだ得ていない。
そもそも、一護がギンとこんなに長く言葉を交わすのは、
今回が初めてと言えるくらいなのに、相手の思惑など解るはずもなかった。

「俺、アンタとこんなに話するの、初めてなんだけど?」
「そうやねぇ。」
「それなのに、何で好きとか言えるわけ?」
「好きになるんに、時間なんて関係あらへんよ。」
「・・・悪ぃ。俺には、やっぱり信じられねぇ。」

正直、一護には、他に言葉が出てこない。
ギンは、気にした風もなく、笑ったまま。

「まぁ、いっぺんで信じてもらえるなんて、ボクかて思てへんし。」
「・・・多分、いつまでも信じられねぇと思うけどな。」
「先の事なんか、解らへんよ?」
「ありえねぇーよ。」

ありありと不信感を顔に出しながらも逃げ出すことなく、
相手を傷つけるようなキツイ言葉さえ投げつけない一護。
そんな義理もないだろうに、黙って相手の言い分を聴いている彼の人となりこそ、
ギンが愛してやまない美点の一つだと、一護本人だけが気付いていない。

「まぁ。今回はご挨拶っちゅーことで。僕の気持ち、知っとってくれたらええよ。」
「・・・聞くだけは、聞いた。」
「ほな、またな。」
「・・・ああ。」

ひらりと手を振ると、ギンは現れたときと同じく、ふらりと姿を消す。

残された一護は、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
現れ方も消え方も突然で、まるでキツネに化かされた気分である。




少し離れた場所で。
立ち去ったはずのギンは、一護の様子を眺めていた。

真面目なあの子は、これで自分を無視することは出来ないだろう。
意識してもらえるようになっただけ、まずは良しと考える。
本人が気付かない所で、一護は結構人気者なのだ。
だからと言って、ギンも諦めるつもりは毛頭なかったけれど。


「逃げられるもんやったら、逃げてみぃ?・・・一護・・・」

聞こえる訳がないのを解った上で、言葉にしてみる。
ギンにとってのトレードマークともいえる薄笑いを消した、端正な顔。
自覚があるのかないのか、そこには、誰も見たことがない真剣な色が浮かんでいた。

「・・・ま、逃がすつもりなんて、あらへんけどな。」

その瞳に宿るのは、不敵な光。






     ( ’09.9.10 )





スポンサーサイト
『甘い恋の5題(ギン一)』 | Comments(0)
Comment

管理者のみに表示