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2-『夜の中にたった独り』

2009年12月14日
「朝が遠すぎる5題」-2

『夜の中にたった独り』


   白哉 → 一護 。










しんとした夜の中、灯りもつけず、白哉はひっそりと坐している。


先程夜一からもたらされた知らせは、思いのほか彼の心を乱した。

『黒崎一護が姿を消した』

死神代行の人間が一人消えたからとてなんら問題あるまい、
いくらそう言い聞かせてみても、内に起こる騒めきは収まらない。
仮面のようなポーカーフェイスに、らしくない苛立ちの色が浮かぶ。

この失踪に、藍染らが一枚かんでいることは間違いないだろう。
何故、藍染が人間である一護にまで手を出したのか。
考えた所で、反逆者の真意など解らなかったが、
おいそれと手を出せない場所に一護がいるのは確からしい。

『連れ去る』という手間のかかる手段を用いていることから、
当面、命の心配はないだろうというのが夜一の見立てだが、
それもいつまで安心できるものか。

何も出来ずにいることが、苛立たしくて仕方がなかった。
そして、そのような己に、自嘲的な笑みが浮かぶ。

ただ一人の義妹さえ見捨てようとした人間であるというのに、
知らせを聞いて以来、一護のことばかり考えている。
彼の無事ばかりが、気にかかる。

いつの間に、己の中で一護がこれほど大きな存在となっていたのか。
このような事態が発生しなければ、気が付かずに済んだかもしれない。
その方が良かったのではないか・・・白哉はそう思う。
無様に感情を揺らめかせる、己の姿など知りたくもなかった。



人間でありながら、たった一人の死神を助けるために、
尸魂界にまで乗り込んできた少年・・・それが一護である。

無謀ともいえる暴挙を成し遂げた一護は、
今となってみれば、尸魂界にとっても恩人といえた。
彼のおかげで、藍染の完璧な計画に、
綻びを生じさせることができたのだから。

その少年の行方が解らなくなったのだ。
心配した所で何も不自然なことではないはず。

ましてや、助けられた死神は、己にとって愛すべき義妹。
そう考えてみても、それだけでない事に、
白哉はすでに気がついている。

彼が消えたと聞いてから、動く心がその証。
それは覚えのある感情の揺らめきだった。
愛妻の命が尽きると知ったときと同じ色である。



いつの間に。
本当に、いつの間にそんな事になったのか。


彼が救おうとしていたのが己の義妹であろうとも、
たかが人間一人に何ができる、と最初は冷めた目で見ていた。

掟は守られねばならない。
貴族としてそれは当然の事。

掟の前では、個人の感情など意味を持たないのだ。
ルキアが己に残された、たった一人の愛する家族だったとしても。
掟に反したのならば、罰せられなければならない。

己が取る道は、嘆願ではなく見届けること。
それを邪魔するものは容赦なく、斬るつもりだった。

それなのに・・・。

敗れたのは、己の方である。



白哉にとって、一護は不思議な存在となった。

隊長格の死神に勝ったからといって、奢らない。
貴族である白哉を当たり前のように、「名」で呼ぶ。
数日前まで己を殺そうとしていた相手に、何の屈託もなく笑いかけてくる。

まるで、柔らかな光のように、一護が持つ空気は鮮やかで優しさを含む。
彼が傍らにあると、白哉は張り詰めたような空気が和らぐように感じられた。


それまで、周りの規範となるべく掟を守る事に固執していた己に、
自分の命も顧みず真っ直ぐぶつかってきた一護は、
その頑ななまでの意志を打ち砕き、掟と戦うという選択肢を突きつけてきた。

かつて、白哉に対し、そのような行動をとった者はいなかった気がする。

隊長であるからというだけでなく、大貴族でもあった己に、
異を唱える命知らずな者など、これからも現れないだろう。


そんな一護の真っ直ぐな気性が、好ましい。
でなければ、誰が己の「名」を呼ぶままにさせておくものか。

改めて考えてみれば、呼びたいようにさせていた時点で、
一護は己にとって、特別な存在となっていたのだろう。

今なら素直に認められる。
一護は必要な存在だ、と。



白哉の心は決まっていた。

どんなに困難であろうとも、誰に止められようとも。
必ず、一護を取り戻す。

一護の不在は、『病』という己にはどうすることも出来なかった理由などではない。
誰か解っている『敵』に奪われたというのなら、ただ『敵』を倒せばいいだけのこと。

腹を括れば、いつものポーカーフェイスを取り戻すことも出来る。
・・・とりあえず、それが表面的なものであろうとも。

護廷十三番隊長の一人ともあろう者が、
取り乱した姿を部下に見せるわけにはいかない。



白哉は音もなく立ち上がると、障子に手をかけた。

空には物言わぬ銀色の月。
ふと、裏切り者の一人を思い出す。

何を考えているのか読めない男。
時によって姿を変える所も、月のようである。

何故、彼を思い出したのかは解らないが、
唯一つ、確かなことはは『不快』という事実。

「・・・嫌な月だ・・・」

無意識に、口から零れ落ちる言葉。

それは誰の耳に届くこともなく。
夜の闇に消えていった。









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『朝が遠すぎる5題』 | Comments(0)
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